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BCPlatforms はシンガポール10万人ゲノムプロジェクトの
基幹ソフトウェアとして採用されました



NTUシンガポールは、バイオインフォマティクスソフトウェア企業であるBC Platformsとの提携により、SG100K研究がフェノタイピングとジェノタイピングの組み合わせによる新しい段階に移行したことを発表しました。


HELIOS( The Health for Life in Singapore)と呼ばれるこの研究は、糖尿病、がん、アルツハイマー病、パーキンソン病や心臓病などの慢性疾患を引き起こす「環境、ライフスタイル、遺伝子因子」に焦点を当てたシンガポールのコホート研究です。今後2年間で、30歳から84歳までの華人、マレー人、インド人の各人種から最大50,000人(SG100Kコホートの半数)を募集し、その後に追加のフェノタイピングを行うことを目的としています。
https://healthforlife.sg

NTUシンガポール(リー・コン・チアンメディカルスクール)は、シンガポールのNational Healthcare Groupとイギリスのインペリアル・カレッジ・ロンドンと共同でHELIOSを主導しています。NTUシンガポールとインペリアル・カレッジ・ロンドンをつなぐのは、両校で教員を務めるSG100Kの主任研究員であるジョン・チェンバーズ氏です。

チェンバーズ氏は、「HELIOSは過去2つのコホートプロジェクトであるSchool of Public Health Studies、シンガポール眼疾患疫学(SEED)プログラム(シンガポール眼科研究所が実施)を含めた連合コホートである。」とSG100Kを表現しています。

2000年代後半から始まった2つの既存コホートは、疾患発生時のバイオマーカーの発見に役立ってきましたが、「標準にしているフェノタイピングがかなり少ないことが欠点」とチェンバーズ氏は述べています。

HELIOSでは、主にアジア人集団を対象にしたジェノタイピングとフェノタイピングを行うことで、チェンバーズ氏がいう「白人集団に偏向した精密医療の不均衡」を改善することを目指しています。

アジア系の人々は、早期発症の心血管疾患や代謝疾患の発症率が高いことが注目されています。

「欧米人の治療方法について研究が進んでいる一方、アジア人の病気に関しては遺伝子的または環境的要因が何であるかについて理解が不足している」とChambers氏は述べ、欧米に比べてアジアでは遺伝子研究が20年遅れていると推測しています。

Chambers氏によれば、HELIOSはSouth Asia Biobank studyと共にインペリアル・カレッジ・ロンドンが関与するアジア太平洋地域における2大大規模コホート研究のうち一つとなります。
https://www.sabiobank.org/about/

SG100Kプログラム全体は、シンガポール保健省(国立医学研究評議会が管理する助成金)が資金を提供し、シンガポール国家研究基金が支援しています。研究、臨床、産業のパートナーを巻き込むことで、参加者の長期的な健康結果をモニターし、アジアのゲノム多様性とアジア特有の疾患に関する洞察を得ることが目的です。

先月新しいパートナーとして公表されたBC Platformsは、HELIOS研究に必須な「データ収集と相互運用性確保」のための技術基盤を提供しています。
https://www.bcplatforms.com

BC Platforms社は、スイス・チューリッヒに本社を置くバイオインフォマティクスソフトウェア企業で、HELIOSコホートから取り込まれリー・コン・チアンメディカルスクール内に蓄積される「遺伝子型と表現型データ」を管理・運用するグローバルバイオバンク向け解析プラットフォームを提供しています。

この解析プラットフォームは
「オープンディスカバリーアナリティクスプラットフォーム」をコンセプトとするソフトウェアハウス BC|Insight(BCインサイト)
「自社開発の検索エンジン」BC|Rquest(BCアールクエスト)
により構成されています。

「BC PlatformsのNino da Silva副社長は、「データベースの整備がコホートプログラムの成功にとって最も重要であり、取得したデータを信頼できる方法で共有・解析できるようにする必要がある。」とコメントしています。

HELIOSに参加する研究者のデータキュレーションを容易にするために、BC PlatformsはOMOP(Observational Medical Outcomes Partnership Common Data Model)を活用してデータを整理し、標準化することに取り組んでいます。

研究者が自身の研究計画にマッチしたコホートを見つけた場合、対象コホートに基づく研究の申請を行い、HELIOSチームが研究計画を精査して承認します。

2022年にリリースされたBC|Insightバージョン7は、研究プロトコールを承認された研究者が、データを解析を安全に行うための仮想ワークスペースを実現しています。

「研究者はBC Platformsのサーバーからデータをダウンロードすることはできませんが、研究に必要な解析ツールを使ってデータを自由に利用することができます。」とda Silva氏は説明しています。

この環境を利用して2022年9月に代謝物解析のベンチャーMetabolonが健康に必要なバイオマーカーの探索に乗り出すことを表明しています。
NTUのデータにアクセスすることにより、予防・診断・治療につながる広範なバイオマーカを探索します。
https://www.metabolon.com

他にもIlluminaとPRECISE(Precision Health Research Singapore)が、SG100K参加者のゲノムを解析するための戦略的パートナーシップを結成しました。Chambersは、PRECISEのCSOも務めており、CRIS(The Consortium for Clinical Research and Innovation Singapore )の子会社であるPRECISEは、シンガポール保健省を代表して、臨床研究・トランシレーショナルリサーチのプログラムを開発しています。
https://www.npm.sg

NTUシンガポールは独自に構築したデータ収集のためのデータプラットフォームを保有していますが、HELIOSコホート内ではBC Platformが唯一のデータ管理者として研究者に必要な情報を提供しています。

数ヶ月前にBC|Insightを新しいバージョンに更新した際、BC PlatformsはTrusted Collaboration Environmentと呼ばれる安全なクラウドコンピューティング機能を導入し、創薬ターゲット発見のためのTRE(Trusted Reseach Environments)の原則に基づいたオープンワークスペース提供を開始しています。

「データを唯一管理する立場であるNTUシンガポールはHELIOS にTRE戦略を採用することを決めた。」とDa Silva氏は語っています。
一方Chambers氏は「HELIOSのビジョンは大学がより大規模な共同研究に参加できる環境を提供することである。」と述べました。

Chambers氏は、「HELIOSのような研究コホートを実現するために必要なデータ基盤を構築するのに数年間を費やした。今こそ全ゲノムシーケンスデータやその他のシーケンスデータのデータベースを生成することができるように、この基盤を適切な企業とのパートナーシップに置きかえる。」
とかたり、BCPlatformsは次の課題であるバイオ・インフォマティックスの基盤構築に取り掛かっています。

Chambers氏は、「これからがサイエンスを創出するときです。HELIOSでは多元的で多様な研究が必要がある。」と語り、アジア人の糖尿病発症率がなぜ高いかという疑問についての質問に答えるために、現在科学的なプロジェクトに取り組んでいると述べました。
「遺伝的なものか?環境的なものか?行動によるものか? 今回初めて、これらの3つの要素を適切に特徴づけることができ、異なる遺伝子環境間における多重化または加算的な効果があるかどうかを理解することができます。」と説明しています。

またChambers氏は、「アジア人がヨーロッパ人よりも運動量が多いか少ないかを決定するためのまともなデータセットがない。」と述べ、HELIOSによって、食事の大規模な数量化、個人の位置情報、熱ストレス、環境汚染、および他の環境曝露などの環境データのオーバーレイが可能になったと説明しています。

Chambersは、「単純な横断的遺伝学的関連付け、つまり症例と対照群を組み合わせる事は非常に簡単です。しかし、それでは問題が解決しません。行動、環境暴露、分子的障害などを加えた縦断的な評価に移行しなければならないのです。」と述べる。

Da Silva氏は、HELIOSの研究はアジア市場向けの薬剤をターゲットにした”巨大なポテンシャル”を生み出すと述べ、これに対してChambers氏はPCSK9がアフリカの家庭で発見され、世界中の家族性高コレステロール血症に対抗する新薬の開発につながったことを指摘した上で、次のように述べています。「私たちの研究は、アジアの人々にとって重要であると同時に、世界的にも意義のある発見をする見込みがあると信じています。」と述べている。

Da Silva氏は「アジア系コホートを含むマルチハプロタイプデータに対するグローバル製薬企業からのリクエスト数が過去2年間で3倍に増加した。過去1年半以上にわたってBC PlatformsとNTUシンガポールはHELIOSでいくつかのテストプロジェクトを実施してきたが、本番はこれからです。」と語っています。
https://www.genomeweb.com/informatics/singapore-population-genomics-program-moves-phenotyping-phase-bc-platforms-partnership